研究内容
樋口グループでは、生き物の構造と機能をまねた“生体模倣材料”に関する研究を行なっています。人は2 m足らずの身長と100 kg体重の中に様々な高機能のセンサや運動機関を持ち、自己修復機能を備えています。この生体機能をまねた材料が構築できれば、省エネルギーで稼働できる高性能な素子が実現でき、持続可能性社会への展開が期待されます。当グループでは、ペプチドやヌクレオチド、糖鎖といった生体関連高分子を用い、これら分子が自発的に形成する構造“自己組織化構造”を組み上げて、その構造に由来した機能を発現できる、機能性生体模倣材料構築を目指しています。代表的な研究を以下に示します。
キーワード:生体関連高分子・自己組織化・合目的的構造・生体模倣材料・機能性材料・センサ・有機無機ナノ複合体
生体をまねた新しいセンサ(認識多様性を有する自立型センシングシステム)
細胞はいろいろな物質を認識して内部にその情報を伝達しています。物質認識には細胞表面に存在する糖鎖が、情報伝達には、細胞膜を貫くイオン透過可能な孔(イオンチャネル)が使われます。我々は、図に示したように、認識対象物質によって再配列される糖鎖集合体(糖クラスター)を認識部位として、同時に形成されるペプチドバンドルを情報伝達部位として機能させることで、高感度・高選択性のセンサの構築に成功しました。認識部位形成が自己組織化的になされるため同じ組成の材料(数種の糖ペプチド混合物)から異なる物質に対するセンシングが可能です。
環境認識及びターゲッチング能を有するDDS担体(がん化学療法用のDDS担体)
がんの化学療法のための薬物送達システム(DDS)として、ターゲット認識能と環境認識能を有するナノカプセルを構築しています。このために、がん細胞近傍の不完全な新生血管を透過可能な粒径を持つカプセル(EPR効果)であること。標的がん細胞に特異的に結合(ターゲット認識能)すること。がん細胞近傍の弱酸性条件下でカプセルが崩壊し、内包した薬物が放出(環境認識能)されることを目標としています。このために、人工細胞であるベシクル表面を、バイオミネラリゼレーションの手法を用い、貝殻の主成分である炭酸カルシウムで、被覆しました。現在はがん細胞の受容体を結合させることで、ターゲット認識能の付与を行っています。